ハラスメント禁止規定の法制化を
政府提出のカスハラ、セクハラ対策の法改正では不十分
ハラスメント対策の強化などを盛り込んだ「労働施策総合推進法改正法案」が政府から国会に提出されました。カスハラ(カスタマーハラスメント)対策や、求職者に対するセクハラ防止措置を事業主に義務化するなどの内容です。
ハラスメント対策については、これまで企業や大学で体制整備が進められてきたにも関わらず、相談窓口が機能していないことなどが問題になっています。企業や大学に措置義務を課すだけの対策では不十分で、ハラスメント行為そのものを禁止する規定の法制化が必要です。適正な事実認定を行い、被害者の救済が行われる体制整備を求め、2025年5月14日の厚生労働委員会で質問しました。
管理職敬遠の風潮 組織運営にも影響
ハラスメントが一旦職場で起きると、本当に大変な状況に陥ることがあります。申し立てた人の言い分を信じる人と申し立てられた人を守ろうとする人に分断され、疲弊してしまいます。そして、どう対応してよいかノウハウのない管理職も悩み苦しむことになります。
近年では「ハラスメントと指摘されるのが怖い」として管理職を敬遠する若者が増えており、職場における人材育成や組織運営にも深刻な影響が出始めています。
相談を解決につなげる体制が整っていない
日本では支援体制の整備が諸外国と比べても遅れています。イギリスでは、政府機関のACASが労使間のトラブルに対して助言や調停を行っており、2022年には65万件の相談があったうち約21.2%がその後のあっせんに至りました。一方で、日本では125万件の相談中、あっせんに至ったのはわずか3500件で全体の0.3%に過ぎません。さらに、あっせんからの解決率も日本では36.0%と極めて低く、制度の実効性に大きな課題があります。
政府の対応は不十分
政府は今回の改正案で、職場でのハラスメントを「行ってはならない」と法文上に明記し、規範意識の醸成を国が担うことを打ち出しています。また政府は、「ハラスメントの未然防止は重要であり、事業主に雇用管理上の措置を義務づける現行法制の下で、国が助言や勧告を通じて対応している」と説明しました。
しかし対応は十分とは言えません。令和2年度および5年度に実施された調査の結果からは、30人以上の企業のうち、全ての措置義務を実施している企業は約半数にとどまっています。残り半数の企業が措置義務に違反している状況です。
「歩み寄り」前提の解決がおかしい
また、現在の日本の労働紛争解決制度は、法的な認定を行わず当事者の歩み寄りによる解決を目指すことに軸を置いています。しかし、ハラスメントは「互いに譲る」性質のものではなく、内密性・公平性・中立性を担保しつつ、明確な事実認定と被害者の救済を伴う対応を目指すべきです。
取り組みが本格化しても30年以上続く問題
「セクハラ」という概念は、1989年に福岡で提訴された日本初のセクハラ裁判を契機に、大きく社会に認識されるようになりました。セクハラという言葉が同年の流行語大賞を受賞し、一般にも広く浸透しました。私が民間企業を退職し大学院で社会学の勉強をしていた頃で、友人に誘われこの裁判の支援する会に参加していました。
大学では、1997年に「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」が結成され、教職員を中心に手弁当での活動が継続されており、こちらにも参加した経験があります。米英の制度を参考に、相談と調査を分離するなどの体制整備が進められ、各大学が対応を構築してきました。しかし現実には相談窓口が機能しておらず、学生の訴えが解決につながらない実態が報告されています。大学ですらこうした状況にある以上、企業や公的機関での対応が十分でないことは明らかです。
ハラスメント対策を次の段階へ
このような現状を放置すべきではありません。まずは措置義務の遵守を徹底させ、違反に対する厳格な監視と指導体制を強化する必要があります。行政は限られた体制で取り組んでいるとのことですが、効果的な対応のためには体制の拡充と、国によるリーダーシップの発揮が不可欠です。
ハラスメントを根絶するためには、予防・対応・救済を含む包括的な政策が求められます。個人に責任を負わせるのではなく、社会全体として取り組む姿勢が必要です。今こそ、日本のハラスメント対策を次の段階に進化させるときです。