教員の労働時間 制度運用に問題

実態調査で「書き換え指示」の疑い

学校現場での長時間労働や過重な勤務負担は、教員の健康に深刻な影響を及ぼしており、看過できない状況となっています。文部科学省の調査によれば、教職員の病気休職者数は2001年の5200人から2022年には8793人と約1.7倍に増加しており、特に精神疾患による休職者は約2.6倍に増加しています。また、過労死ラインを超えると脳・心臓疾患のリスクを2〜3倍に高めるともされています。

常態化している過重労働をなくすためには正確な実態把握が必要ですが、文科省による労働時間調査が「書き換えによる過少申告」で改ざんされている疑いがあることがわかりました。教員の労働環境改善を求め、2024年5月8日の厚生労働委員会で質問しました。

過労死ライン超 高水準のまま

文部科学省が2023年に公表した勤務実態調査では、過労死ラインを超えて勤務している教員は、中学校で36.6%、小学校で14.2%に上っており、全業種平均の8.9%と比べても際立って高い水準にあります。政府はこうした教員の長時間労働に対し、「深刻な課題である」との認識を示し、文科省が処遇改善や学校運営体制の充実などを一体的に進める方針であると説明しています。また厚生労働省も、過労死等防止対策推進法に基づく取り組みの一環として、文科省など関係府省と連携し、長時間労働削減に向けた施策を継続するとしています。

文科省調査 実態と30ポイント乖離か

しかし、実態はこの数値よりも長時間労働が横行している可能性があります。名古屋大学大学院の内田良教授らの独自調査によると、中学校教員の74.4%が過労死ラインを超える時間外労働を行っており、文科省の調査結果との間には30ポイント以上の乖離がみられます。

この差の要因の一つとして、管理職による「勤務時間記録の書き換え要求」が行われていることが指摘されており、調査対象のうち16.6%が「勤務時間を少なく書き換えるよう求められた経験がある」と回答しています。こうした過少申告は、正確な勤務実態の把握を妨げ、現場の実態を覆い隠す重大な問題です。

重大違反でも実質「罰則なし」

文科省は、「虚偽の記録を残すことはあってはならない」とし、勤務時間の客観的把握を求める指針やQ&Aを示していると説明しました。また、虚偽記録があれば懲戒処分の対象となる可能性もあるとしていますが、実際に懲戒処分を受けた管理職はこれまで報告されていないとのことです。このことは、現行制度の運用が不十分であることを示しており、制度の実効性が問われます。

過少申告、いわゆるサービス残業は、民間企業であれば労働基準法違反に該当し、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科されます。ところが、給特法のもとにある教員については、残業時間の上限が「指針」によって定められているに過ぎず、実際の罰則や時間外手当の支給は存在しません。これは、同じように長時間労働に従事している他業種――たとえば建設業や運輸業、医療業といった分野においては、猶予期間を経た上で罰則付きの時間外労働の上限規制が2024年度から適用されているのとは対照的です。教員だけがこの労働保護から取り残されている状況は極めて不合理です。

制度上の歪みが根本原因

こうした現状を踏まえると、教員の過労問題や精神疾患の増加は制度上の歪みが根本原因であると考えます。まず、勤務時間の客観的・厳密な把握を徹底する必要があります。管理職による勤務時間の改ざんを防ぐための厳格な監査体制や、懲戒処分を含む明確な責任追及制度を確立すべきです。また、教員の労働実態を適正に評価し、給特法の見直しを含めた包括的な制度改正を早急に検討するべきです。

すでに他の過重労働が常態化していた業種では、罰則付きの時間外労働規制が導入されています。教員にも同様の保護を適用すべきであり、それなしに教員の健康や命を守ることはできません。国として、教員という専門職の尊厳と安全を保障する制度的な土台を再構築する必要があります。