2013年12月10日:「学びの共同体」と「絶滅危惧種スイゼンジノリの保全」について

福岡県議会12月定例会一般質問

■学力向上につながる「学びの共同体」について

皆さま、こんにちわ。民主党・県政クラブ県議団の堤かなめです。

はじめに、学力向上につながる「学びの共同体」について質問いたします。

つい最近のことですが、沖縄県に「学びの共同体」という教育方法によって驚異的な成果を挙げている村があることを知りました[1]。この村には小学校が7校ありますが、この7つの小学校すべてで、全国でも最底辺に位置していた「全国学力テスト」の成績が、わずか2年で全国平均を上回るようになったというのです。とくに国語の発展的学力を測るB問題では、全国平均を3点以上も上回りました。また、この村に1校の中学校はいわゆる「荒れた」学校でしたが、今では、いじめなどの問題行動も不登校もほぼゼロになったそうです。

わずか2年で、成績が飛躍的に伸び、問題行動がなくなるとは、にわかには信じがたいと思われる方も多いのではないでしょうか。私自身、本当のところどうなのだろうと、この村の指導主事の方にお聞きしましたところ、この事実に間違いはないとのことでした[2]。また最近では、この中学校に、文部科学省、インドネシア、台湾などから視察が押し寄せており、その対応に追われていらっしゃるとのことです。指導主事の方の言葉の端々から、いま取り組んでおられる改革に対する自信と熱意を感じました。

「学びの共同体」とは、学習院大学教授・東京大学名誉教授の佐藤学氏が、内外の教育理論に基づいて構築した方法を言うものです。この教育方法の実践により、沖縄のこの村にとどまらず、全国のあちこちで、学力面だけでなく生徒指導の面でも劇的な成果を挙げており、関心が高まってきています。2013年現在、小学校で約1500校、中学校で約2000校、つまり全国の公立小中学校の1割もの学校で「学びの共同体」が実践されており、高校でも約500校が挑戦し始めているそうです。

さらに、アジア諸国では日本以上に改革のスピードが速いことがわかりました[3]。すでに、中国、シンガポール、インドネシア、ベトナム、香港、台湾などで「学びの共同体」が導入され、ここでも目覚ましい成果を挙げています。とくに上海では、15年以上前から、この佐藤氏が提唱する「学びの共同体」を、教育委員会が政策として導入し、全市を挙げて実践。4年前(2009年)のPISAの調査で、上海は断トツの世界一になりました。そして昨年(2012年)の調査でも、上海は、「数学的応用力」「読解力」「科学的応用力」の3分野すべてで世界一となっています。

では、具体的にはどのような改革なのでしょうか。10年前から、この「学びの共同体」としての学校づくりに取り組んできた大分県別府市立青山小学校公開授業に先月初め(11月1日)参加させていただきました。教室では、机がコの字型に配置され、生徒が互いの顔を見ながら話をしたり、聴いたりできるようになっており、子ども主体の授業となっていました。また、3~4人の学習班をつくり、子ども同士の教え合い」「学び合い」を促しておられまし

そもそも、人間の知識の定着は、「聴いただけでは5%教えると90%」だと言われています。人に教えることでより深く理解できるようになるということです。

したがって、子ども同士が教え合うことで、伸びる子の成績はもっと伸びていく。そして、勉強が嫌いな子どもも「わかった!」という瞬間を体験することで学ぶことが楽しくなっていくと言います。つまり「教え合い」は、すべての子どもたちの力を伸ばすことになり、結果的に平均点をアップさせることになります。

世界的にも、エリート教育よりも、多様な力をもつ子どもたちが「教え合う」「学び合う」という形態をとった方が子どもの学力を伸ばすことが立証されつつあります。たとえば、小学校4年生の段階でエリート教育と大衆教育を分離するドイツなどの国々は、そのような分離を行っていないフィンランドやスウェーデンなどの国々よりも平均点で劣っています。また、エリート教育による上位グループの成績は、エリート教育を行っていないトップ・レベルの国々の上位グループよりも下位にとどまっています[4]

しかし、実際に小学校を見学して、成績ももちろん大切ですが、何よりも大切なのは、「教え合い」「学び合い」「聴き合い」により友情が深まり、絆が生まれ、子どもたちが自然に助け合うようになり、学校がどんどん楽しくなる。学ぶことを通じて、クラスが、学校が、地域が、まさに一つの共同体のようになることではないかと感じました。また、多額の予算をかけずとも、子どもにとっても、教員にとっても、誰にとっても良い取組であり、本県の学力向上そして県民幸福度の向上につながるものだと考えます。

そこで、杉光教育長に3点お尋ねします。

まず1点目に、このような「学びの共同体」の改革とその成果について、ぜひ教育長のご見解をお聞かせいただきたいと思います。

2点目に、県内の市町村や学校において、このような改革を導入している事例、およびその成果や課題につい

てお聞かせください。

3点目に、福岡でも、沖縄など国内の先進地、そして上海などアジア諸国に後れをとることなく、早急に「学びの共同体」の改革を導入すべきと考えますが、その点につきましてお考えをお聞かせください。

〇教育委員長答弁

「学びの共同体」の取組は、学習指導の中で児童生徒の「学び合い」や「聴き合い」「教え合い」の活動を学校全体で進める教育方法であり、児童生徒相互が聴き合うことで理解の不十分さを補ったり、教え合うことで理解を深めたりするという教育方法と聞いている。このような教育活動を通して、児童生徒のよりよい人間関係を育むとともに、全ての学年で行うことで、教員の指導方法等に関する共通理解を深め、授業改善や学校改善を目指す取組であると考えている。

 本県でこのような教育方法を市町村全体で取り組んでいるところは見られないが、小中学校では今年度22校が取り組んでいる。これらの学校では、3から4名程度の小さなグループで「聴き合い」や「教え合い」の学習を進めている。

 成果としては、児童生徒間のよりよい人間関係が育成できたり、考える力や自分の考えを表現する力の高まり等が見られたりすると報告されている。課題としては、教員の児童生徒の発言の取り上げ方やつなぎ方、機会を捉えた助言の仕方などについて教員の指導力が求められるとされている。

 「教え合い」「学び合い」の活動は、学習指導要領に示す言語活動に当たり、コミュニケーションの力や考える力、判断する力、表現する力などの素地となる教育活動であると考えている。このため、県下の学校では、学習指導の中に「教え合い」や「学び合い」の活動を取り入れている学校も増えてきており、実践校の事例等を必要に応じ、授業研修会等を通して学校や教員に広く提供する。

 <要望>

 教育長に1点要望いたします。

いま学校現場では、子どもたちが「えっ、また、テスト?」と言うほど、テスト漬けになっていると聞きます。これでは、テストが苦手な子どもたちはますます勉強や学校が嫌いになってしまうのではないでしょうか。テストの成績を短期間にアップさせることを目的に、過去問など模擬テストを繰り返したり、全国学力テストの結果を学校別や市町村別に公表することよりも、真の意味での教育改革が必要と考えます。

我が会派の代表質問でも指摘しましたように、県内4地区の教育格差は、本県教育行政の大きな課題となっています。格差の是正のためにも、少人数学級の推進、教員の多忙化の解消、プロジェクターなどICT機器の整備など、教育環境の改善とあわせ、「学びの共同体」のような、実効性のある教育方法をぜひとも早急に導入いただきますよう、重ねて、お願いしまして質問を終わらせていただきます。有難うございました。


[1] 佐藤学「学び合う教室・育ち合う学校」『教育総合技術』2013年7月号94頁~97頁

[2] 2013年11月26日電話インタビューによる。

[3] http://shiga-takaboo-kosodatesien.blog.eonet.jp/skillup/manabi-no-kyoudoutai.html

佐藤学『学校の挑戦‐学びの共同体を創る』小学館、2006年、26頁

[4] 佐藤学『教育の方法』放送大学叢書011、左右社、2010年、34頁。