2017年 6月21日:子どものたちの歯と口の健康づくりについて
福岡県議会予算特別委員会
民進党・県政クラブ県議団の堤かなめです。
子どもたちの歯と口の健康づくりについて6点、質問いたします。
はじめに、妊産婦歯科検診および歯科保健指導についてです。
妊娠中は、つわり等の影響で歯みがきが怠りがちになったり、間食の回数が増えるなどにより、口の中の環境が悪化し、むし歯が増加したり歯周病が進行しやすい傾向にあります。また、近年の調査研究によると、妊娠中の歯周病は、早産や低体重児出産のリスクとなることが示唆されています。
また、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、むし歯の原因菌であるミュータンス菌はありませんが、乳児期に接触機会の多い母親などの家族からミュータンス菌が感染し定着すると考えられています。したがって、母親や家族にむし歯があれば、適切な治療を受け、口の中のミュータンス菌を減らしておくことが、子どものむし歯予防のうえでも望ましいとされています。
すなわち、妊産婦歯科健診と保健指導が広まれば、妊婦の方だけでなく、赤ちゃんの歯の健康にもつながることになります。
しかしながら、妊産婦の方々の歯科検診および保健指導を実施した市町村は、2015年度の時点で、本県では4割強にとどまっており、半数以上の市町村では実施されていません。この件については、2015年度決算特別委員会において指摘させていただき、「未実施の市町村には個別に働きかける」とのご回答をいただいたところです。
そこで、本県は、この間、未実施の自治体に対して具体的にどのような働きかけを行い、どのような成果が得られたのか、知事にお聞きします。
2点目に、子どもの「口腔崩壊」についてです。
「口腔崩壊」とは、一般に、10本以上のむし歯や歯根しかないような未処置の歯が何本もあり、食べ物をうまくかめない状態を指します。このような状態に陥ると、栄養がとれなくなり、体の成長やあごの発達などに影響する恐れもあります。
昨年度、兵庫県内において、県保険医協会が、県内すべての公立私立小中高校および特別支援学校の児童・生徒を対象に調査を行ったところ、回答した学校の35%が「口腔崩壊」の状態の子どもがいると回答し、同協会は、「全体的に子どものむし歯は減少傾向なのに二極化が進んでいる」と指摘しています。
また、宮城県、長野県、大阪府においても、2013、14年に、同様の調査が実施され、「口腔崩壊」の児童・生徒がいると答えた学校は、宮城県と大阪府で半数以上、長野県で半数弱に上りました。
そこで、本県では、同様の調査が行われたことはあるのか、行われたことがなければ、県として早期に調査し、子どもたちの現状を県として把握すべきと考えますが、知事の考えをお聞きします。
3点目に、むし歯・歯周病と児童虐待についてです。
ネグレクトなど虐待の中にいる子どもたちの多くは、満足な食事も与えられず、歯みがきも教えてもらえず、むし歯や歯周病になっても治療を受けさせてもらえません。
東京都は、2002年に、都歯科医師会の協力で、虐待を受けた子どもたちの口腔内検診を行いました。ゼロ歳から12歳までの170人の被虐待児童と一般の児童を比べたところ、一人平均のむし歯の数は3倍以上で、治療率は2~3割以下という結果でした。
そこで、本県でも、虐待を受けた子どもたちは、むし歯や歯周病のハイリスクを抱えていると推察されますが、知事は、むし歯や歯周病と児童虐待との関連についてどのような認識をおもちか、知事にお聞きします。
また、歯科医師の方々は、早期発見など虐待の防止に大きな役割を有しておられますが、本県では、県歯科医師会の協力のもと、児童虐待の防止についてどのような取組みを行っているのか、知事にお聞きします。
4点目に、学齢期における歯科保健指導についてです。
「福岡県歯科口腔保健推進計画」には、「歯垢をコントロールする清掃法については、科学的な根拠に基づく有効な歯肉炎予防法であり、将来の歯周病対策としても有効です。歯ブラシなどにより効果的な口腔清掃法を学齢期に習得できるよう、小学校、中学校、高校における歯科保健指導を推進します」と明記されています。
福岡県学校歯科医会が行った調査によれば、2001年から2013年の12年間で、小学校6年生で永久歯にむし歯のある子どもの割合が4割減少する一方、歯周病のある子どもは3割増加したとのことです。その背景として、食生活の変化で柔らかいファストフードやお菓子を食べる機会が増えたことなどが指摘されています。
そこで、むし歯と歯周病を同時に予防するには、生活習慣や歯みがき方法の改善といった歯科保健指導が重要ですが、小学校、中学校、高校における歯科保健指導の本県の状況はどうなっているのか、教育長にお聞きします。
あわせて、学校での歯科検診においてむし歯の本数が多かった子どもたちや保護者などに対して、どのようなアプローチを行っているのか、教育長にお聞きします。
5点目に、フッ化物洗口についてです。
“歯の健康日本一”を達成した神奈川県横浜市立中尾小学校の学校歯科医を長年務めてこられた江口康久万(やすくま)氏は、「毎年のように同じ年齢の子供が同じ場所にむし歯ができてくるのです。調べるとその歯は44歳までに1/4の人が抜けていました。そして歯周病の広がるきっかけとなっていたのです。このむし歯を6歳むし歯と名付けフッ素を使わずに歯磨き指導だけで予防し中尾小学校は歯科保健日本一に輝きました」と述べておられます[1]。
一方、本県は、今年度から実施される「学童期におけるむし歯予防推進事業」において、県内6か所の小学校をモデル校とし、保護者の同意が得られた児童に対し、フッ化物洗口を実施する」としています。フッ化物洗口とは、週1回、むし歯予防のためにフッ化ナトリウム(いわゆるフッ素)の水溶液10ccを口に含んで1分間ブクブクうがいするというものです。
確かに2003年に厚生労働省が定めた「フッ化物洗口ガイドラインについて」では、「高いむし歯予防効果がある」と記されていまが、我が国においてフッ化物洗口の高い有効性の根拠とされている調査研究については、歯みがきや食生活の改善などフッ化物洗口以外の要因を排除できていないなど、根拠に乏しいという指摘があります[2]。
さらには、フッ化物洗口のモデル県とされている新潟県や佐賀県では、歯みがき指導などの歯科保健指導も積極的に行われており、これら複合的な要因によって他県よりもむし歯が少ないと解釈するのが妥当という意見もあります[3]。
そこで、我が国におけるむし歯の減少は、歯みがきや食生活の改善も含めた複合的なものであると考えますが、知事は、効果的なむし歯予防についてどのような認識をおもちなのかお聞きします。
最後に、公立小学校へのフッ化物洗口の導入についてです。
フッ化物洗口については、養護の先生をはじめ学校現場に、「安全性に不安がある」「希望しない子に対する配慮が難しい」「薬剤に頼る健康教育は義務教育の場にふさわしくない」、保護者への説明や実施の有無の確認などを含め「労力と時間がかかる」、そもそも「効果がわからない」などなど、根強い反対の声が多数あります。
国際的には、途上国や貧困地域、一般的家庭が歯ブラシや歯みがき剤を買えないような地域では、水道水にフッ化物を添加したり、学校で集団的にフッ化物洗口をすることが推奨されるとする論調もあります。しかしながら、歯みがきや砂糖の摂取の減少などにより、むし歯が減少してきた先進国においては、フッ化物を広く集団的に使用するのはなく、ハイリスクの子どもに対して限定的個別的に使用することが推奨されるようになってきています[4]。
実際、地域全体に広くフッ化物が使用される「水道水への添加」については、有効性や安全性への懸念から、一時期導入していたスウェーデン、オランダ、ドイツ、スイスなどの国で次々と中止され、ヨーロッパ諸国では人口の97%、ほとんどの人口で実施されていません[5]。また、「学校でのフッ化物洗口」は、1980年代に米国で導入が始まったものですが、現在では、「学校でのフッ化物洗口」を実施する州は、ピーク時の2003年から15%減少したとのことです[6]。
したがって、今になって、本県において「学校でのフッ化物洗口」を導入するというのは、まさに、周回遅れ、時代錯誤であると言わざるを得ません。
そこで、このような世界的動向を鑑み、本県においても、学校へのフッ化物洗口の導入ではなく、先に述べた、妊婦の方々や学童期の子どもたちに対する歯科保健指導の徹底に加え、「口腔崩壊」の子どもや保護者、ハイリスクを抱える子どもや保護者への働きかけにより、子どもたちの歯と口の健康づくりを推進すべきと考えますが、知事の考えをお聞きします。
以上、知事と教育長の誠意あるご答弁をお願いします。
【再登壇】
知事と教育長よりご答弁いただきました。
フッ化物洗口につきまして、知事に1点再質問いたします。
知事は、「他県においても、フッ化物洗口の実施後には、学童期のむし歯本数が大幅に減少している実態がある」とお答えになりましたが、先ほど述べましたように、実際には、フッ化物洗口と同時に歯みがき指導などの歯科保健指導が行われており、正確には「フッ化物洗口および歯科保健指導の実施後には」ではないでしょうか?
繰り返します、正確には、「フッ化物洗口だけでなく、フッ化物洗口および歯科保健指導を実施した後には、学童期のむし歯本数が大幅に減少している実態がある」というのが、正確な実態ではないでしょうか?
【再々登壇】
まさに知事がお答えになりましたように、新潟県、佐賀県では、同時に、歯みがき指導なども行われているにもかかわらず、そのことは無視され、フッ化物洗口のみの効果とされているようです。
本県では、そのようなことがないよう、県民に正確な情報を伝えていただきますよう、要望いたします。
むし歯の本数が減少してきている我が国における「学校でのフッ化物洗口」単独のむし歯予防効果は、いまだ明確には立証できていない、これが、現時点での科学的知見と考えます。
一方、最近では、フッ化物が子どもの神経の発達に与える悪影響が懸念され、そのさらなる研究が必要であると結論したハーバード大学公衆衛生大学院の機関誌に掲載された論文[7]なども出てきています。やはり、私は、教育の場では、薬物に頼らない方法で、子どもの歯と口の健康づくりをすべきと考えます。先に述べた中尾小学校では給食後に5分間DVDをみながら全生徒が歯みがきするとのことですが、給食を食べた後水道水でうがいするだけでも、徹底すれば効果があるというご意見もお聞きしました。
小川知事におかれましては、本県の「学童期におけるむし歯予防推進事業」の内容について、フッ化物洗口ではなく、先に述べました徹底した歯科保健指導の実施へと変更されますこと、これに加え、ハイリスクの子どもたちへのアプローチなどによって、歯と口の健康づくりに、知事としてしっかりと取り組んでくださいますことを要望し、質問を終わります。
[1]江口康久万『6歳むし歯12歳むし歯から子どもたちをまもれ~将来の夢のために~」扶桑社、2016年
[2]観察者と被験者が調査内容を知り得ない状況をつくる二重盲検法を用いていない、実際に介入を行う集団と介入を行わない対照群との比較が行われていないといった指摘もある。
[3]各県の小学校でのフッ化物洗口の実施率と、中学1年生(12歳児)の1人当たりむし歯数には必ずしも相関があるとは言えないという指摘もある。
[4] Fluoride and Oral Health, Community Dental Health (2016)33,69-99
[5] https://www.theguardian.com/cities/2016/apr/13/is-fluoride-good-for-cities-newcastle-hull
Something in the water: is fluoride actually good for cities? theguardian 13 April 2016.ぎむ
http://fluoridealert.org/content/water_europe/
[6] School-Based Fluoride Mouthrinse Programs Policy Statement, Association of State and Territorial Dental Directors (ASTDD) Adopted: March 1, 2011
[7] https://www.hsph.harvard.edu/news/features/fluoride-childrens-health-grandjean-choi/
Impact of fluoride on neurological development in children,