2019年12月12日:「大学入学共通テスト」への英語民間試験及び記述式問題の導入中止について
福岡県議会一般質問
はじめに「大学入学共通テスト」への英語民間試験の導入中止についてお聞きします。
2020年度から、大学入試センター試験に代わり「大学入学共通テスト」が始まります。「大学入学共通テスト」は、国立大学は受験が必須であり、私立大学の多くの大学も活用し、毎年約50万人以上が受験する予定となっています。
英語科目においては、共通テストに加えて、「読む・聞く・書く・話す」の4技能を測定するため、文部科学省は、一旦は、民間団体が実施する検定試験を活用することを決めました。しかしながら、この英語民間試験の導入に対して、経済格差、地域格差、公平性などについて様々な疑問が浮上し、全国の公立・私立高校の校長からなる全国高等学校長協会は、本年7月と9月の2度に渡り、文部科学大臣宛てに、延期もしくは制度の見直しを求める要望書を提出しました。
10月24日には、萩生田文部科学大臣がテレビ番組で「自分の身の丈に合わせて頑張ってもらえれば」と発言。その後、大臣は、発言を謝罪し撤回し、11月1日には来年度からの導入見送りを発表しました。しかし、このような制度の開始まで5ヶ月を切った中での突然の方針転換に対し、高校生や高校現場からは、「すでに準備を進めてきた高校生にどう説明するのか」「もっと早く決断すべきだった」「分からないことがだらけで不安」などの声が上がっています。
そこで1点目に、このように「大学入学共通テスト」への英語民間試験の導入が見送りとなったことについて、県教育委員会として、どのように認識しているのか、教育長にお聞きします。
*教育長の回答
●県教育委員会としては、英語民間試験の活用に当たり、実施日や実施会場等の拡大を団体に要請するなど、本県高校生ができる限り不利益を被ることのないよう準備をしてきたところである。しかしながら、全国的に見ると、受験機会や経済的な負担等の課題が容易に解決できない地域があることも事実であり、今回の決定はやむを得ないものと考えている。
2点目に、今後の見直しについてお伺いします。
文部科学省は、今後、民間試験の活用の是非も含め1年をめどに見直しを議論するとしていますが、有識者や高校現場からは、民間試験の導入そのものに対する根強い批判があります。
まず、民間試験の実施業者は学習指導要領に従うことを義務付けられてないため、高校現場では、民間試験対策に追われ正規の授業をつぶして模擬試験を受けさせるところもすでに出ていると聞いています。これでは、民間試験対策が高校教育をゆがめることになり公教育の破綻につながるのではないかと危惧します。
合わせて、今回認定された民間試験は、7種類ありますが、実施形式やレベルによってさらに22通りに分かれており、それぞれ目的や試験の内容、難易度、試験方法、実施回数など違いが多くあり、大学入試として公正に使えるのかという根本的な問題も抱えています。
また、保護者の経済的負担が大きいことも問題視されています。民間試験の受験料は1回どれも5千円以上、高いものでは2万円以上かかり、裕福な家庭では何度も民間試験を受けさせられるため、結果的に、経済格差が受験結果を左右することになりかねません。
さらには、地域によっては自分の居住地では受けられない試験があり、へき地や離島に住む受験生は、遠方まで出かけて受検しなければないため、交通費や宿泊費がかかるなど、地域格差が受験生を苦しめることになります。
加えて、障害のある受検生に対して、これまでのセンター入試では、全盲の受験者のための点字冊子の提供、弱視の受験者のための拡大文字冊子の提供のようなキメ細かい配慮が実施されてきました。ところが、民間試験ではこれらの配慮が準備されておらず、「障害者差別解消法」違反の疑いも指摘されています。
そもそも、センター試験に英語のリスニングテストが2006年に初めて導入されてから10年以上経ちますが,導入の前と後で大学生のリスニング力が向上したという明確なエビデンス(証左)はなく、民間試験導入で4技能を強化するという発想自体が間違っているという指摘もあります。
そこで、このような様々な課題を抱える英語民間試験について、教育長は、今後どのような方向性で見直すべきと考えておられるのか、見解をお聞かせください。
*教育長の回答
●令和2年度からの英語民間試験の導入は見送られたが、高校教育及び中学校教育において、英語4技能をバランスよく身に付けさせるという方向性に変わりないものと認識している。このため、大学入試については、英語4技能の総合的な育成を促すと共に、公平性・公正性を確保しつつ、その能力を適切に評価できるものとなるよう、抜本的ば見直しが行われるべきと考えている。
次に、記述式問題についてお伺いします。
今朝の新聞報道によれば、「大学入学共通テスト」への国語と数学の一部における記述式問題の導入についても、様々な批判を受け、文部科学省が来週、見送りを正式決定する見込みとのことです。
指摘されている問題点のひとつに、採点の問題があります。たとえば、約50万人もの答案を20日以内に採点しなければならないため、採点に従事するのは1万人規模とされており、採点者にはアルバイトも含まれる予定だとのことです。そのため、当然ながら、「採点者の質はどうなのか、公平な採点ができるのか」という疑問が出ています。
また、「高校生の自己採点が難しく志望校を絞りにくい」といった課題も指摘されている状況です。
アメリカにおいても、日本の「大学入学共通テスト」に相当するSATまたはACTにおける選択科目として2005年に記述式問題の一種であるエッセイ(essay)を導入しました。しかし近年では、このエッセイを入学判定に含める大学は全体の2%しかなく、ハーバード大学、コロンビア大学などのいわゆる難関大学でも、エッセイを課すのは、通常、個別の大学の二次試験においてのみとなっています。
そこで、記述式問題の導入についても、数々の指摘に真摯に耳を傾け、海外での先行事例なども調査するため、まずは導入を延期し、その是非も含め見直しを議論すべきと考えますが、教育長の見解をお聞かせください。
*教育長の回答
●国語及び数学の記述式問題については、マークシート式問題だけでは測れない、論理的な思考力・表現力を適切に評価するとともに、高校教育における授業改善をより一層促進する意義があると認識している。一方で、採点の難しさが指摘されており、特に、自己採点とのズレについては、出願先の選択に重大な影響を及ぼす恐れがあることから、実施に当たっては、こうした課題が解消される必要があると考えている。